
屋上キングダム Blog から By 沼尻 つた子
http://okujoking.exblog.jp/
Twitterの「#BookSpy」を知ってから
http://togetter.com/li/72590
電車で本をひらいてる人が気になってしかたがない。
私も諜報活動、してみたい。
でも、大抵の人はケータイかスマホに目を落としてる。
まあ私もアンドロイド欲しいなとか思ってるし。
たしかに電子書籍も魅力的。
だけど紙の本の手触りは、やっぱり特別だ。
で、日曜の午後の京浜東北線、大船行き。
すこし混んだ車内に、彼はいた。
ドア近くに立つ、休日のサラリーマンて風情の男性。
オリーブグリーンのモッズコート、コーデュロイのパンツ、
無造作なのか寝癖なのか微妙な髪、鼈甲縁の眼鏡。
手には文庫本。
あの蔦のからまる表紙、昔の岩波ぽい。
カバーがなくて帯だけ巻かれてたタイプの。
できるだけさりげなく、背後から近くに寄って、
フードのファーのふさふさの隙間から横目でのぞきこむ。
大きな手にすっぽり収まっている文庫本。
特定できるかな。
あれ?
これ、目次だよね。
まるでメニューみたい。喫茶店の。
ミックスジュース (関西方面かも)
アーモンドオーレ (いいね、飲みたくなった)
コーヒー<あったか~い> (へ、自販機?)
ロイヤルミルクティ (これも美味しそう)
バタートースト (おなかへった)
チョコレートバナナパフェ (デザートもなくちゃ)
ブレンドコーヒー (直球だな)
メイドのお絵描きオムライス (ええ?アキバ系?)
Today's Special (んん、日替わり?)
彼は、ぱらぱら頁をめくる。
中表紙が何枚かある。アンソロジーらしい。
そうか、メニューは題だったんだ。
その下に作者名。
はじめて見る名前ばかりだな。
姓と名がそろっている人もいるし、
ニックネームなのかハンドルネームなのか
カタカナだけ、ひらがなだけの人もいる。
なんか、ふしぎ。
彼に気づかれないよう、息をつめて更にスパイする。
読みきりらしい小説にエッセイ、ルポっぽいのも。
一行の台詞のような、詩のようなものが並んだ頁もある。
これってなんだっけ、57577の……
たしか、短歌?
ところどころ挿絵がはさまれている。
かわいかったりかっこよかったり、
雰囲気が違うけれど、同じイラストレーターの絵らしい。
きっと表紙もこの人のデザインだ。
あ、蔦のあいまに喫茶道具!
私はドアガラスに映る表紙に
もういちど目をこらす。
岩波、じゃない。
最後のほうにはちゃんと
「読書子に寄す」にそっくりな頁もあるのに……
……屋上文庫?
そして、活字ではなく手書きのタイトルを、
鏡文字で確認する。
京浜東北はなめらかに進む。
彼は頁をゆっくりめくりながら
笑いをこらえるように肩をゆらしたり
ちょっと鼻をすすったり、
眼鏡をかけなおしたりしている。
私は考える。
「お茶しませんか」
という台詞は、21世紀を10年も過ぎた今でも
有効なんだろうか。
車両はすこしずつ、スピードをおとしていく。
カフェでもコーヒースタンドでも
ましてファミレスのドリンクバーでもなく
喫茶店で、一緒にお茶を。
一緒に、その本を。
彼がもたれていたドアがひらく。
ふと振り向いた彼と、目があう。
「かまたー、蒲田です」
沼尻 つた子
*
第十一回文学フリマに参加します。
開催日: 2010年12月 5日(日)
時間: 開場11:00~終了17:00(予定)
会場: 大田区産業プラザPiO 大展示ホール・小展示ホール
アクセス: 京浜急行本線「京急蒲田駅」徒歩3分、JR京浜東北線「蒲田駅」徒歩13分
公式サイト:http://bunfree.net/
「屋上キングダム」 (小展示ホール ウ-19)
あみー 稲荷辺長太 後藤グミ 笹本奈緒 志井一 辻一郎
天国ななお 仁尾智 沼尻つた子 モーフ 百田きりん
(五十音順)
最近のコメント